新年早々

まあまあな事件が起きた。ま、事件というほどのものでもないのだけれど、日常の中ではなかなか起きないこと、起きるとかなり面倒くさいこと、が起きた。

正月休みも終わりかけの週末、ジョーカノが買い物に行きたいというので車で迎えに行き、モールへ向かった。で、買い物を済まし、スーパーで食料品とかも買い、カートを押して車に戻り、向こうの家へ帰った。その片道はだいたい5キロくらいで、空いていれば15分もあれば着く。モールも空いていたけれど、道もガラガラで、とくに問題なく帰り着いた。

で、車を止め、向こうが荷物を下ろそうとした時、事件が発覚した。

「ちょっと、カバンがない!」
「は?」

どうやらハンドバッグをカートに引っ掛けていて、そのまま忘れて置いてきてしまったらしい。

「どうしよう?」
流石に顔色が変わっていた。鞄の中には何もかも入っているだろうから当然だった。
「でもモールなんかカメラだらけだから盗られてはおらんよ、ましてカート置き場なら絶対にカメラが見てる、たぶんそのまま放置されてるか、誰かが事務所に届けてるわ」
そう言って安心させようとしたものの、あまり効果はなかった。なので、こっちの電話を渡し、更に言った。
「とりあえず自分の電話に電話してみ? 誰かが拾ってて誰か出るかもしれんし」
「ダメ、電話は持ってる、それにロックかかってるじゃん」
そう言って自分の電話をポケットから出して示し、(ロックは関係ないだろ)と思ったけど「それもそうだな」と同意しておくと、間髪いれずにこっちを促した。
「とにかくすぐ戻って!」
「わかったわかった」

すぐに車を出し、またモールへ向かった。助手席で「どうしよう、どうしよう」とばかり言っているので、走りながら勧めた。
「とりあえずモールの事務所に電話してみろよ、届いているかもしれんし」
「電話番号なんてわからない」
「自分の電話で調べろよ」
「どうやって?」
「Siriに訊くか、地図見りゃ出るだろ」
「やってよ」
完全にパニクっているのでどうにもならなかった。
「運転中にできんわ」
仕方ないので空いている場所で車を路肩に止め、向こうの電話のSiriでモールの番号を訊き、番号が示されると、そのまま端末を手渡して発信させた。

で、電話を受け取ったジョーカノはモール側の人が出ると、鞄を忘れてきた旨とその色や形状を伝えて説明し、届いていないか訊いた。すると、鞄はサービスカウンターみたいなところに無事に届いていた。それを聞いて、かなり安心した様子が狭い車内の空気を伝わってはっきりとわかった。そしてすぐに取りに行くと伝えて電話を切ると、ぽつりと言った。

「お金だけ抜かれてるかな?」
「いや、たぶんそれはないだろ」
「なんで?」
「だからモールなんて死角がないくらいカメラだらけだから、鞄が届いているなら余計に悪いことなんかできんよ」
まあ仕方ないことだけれど、それでもまだ不安そうで、それ以上何を言っても無駄だろうから、黙ったまま車を走らせた。

そして。
結果としては、鞄の中身は何も抜かれることなく、そのまま戻ってきた。訊くと、届けてくれたのは客ではなく、カートを回収して回っているおじさんが見つけてくれたらしい。

しかし、いつもはどこへ行っても監視カメラだらけの状況に「うぜーな」と思っていたけれど、こういうことがあると「カメラのおかげだな」と感じずにはいられなかった。カメラの抑止力がなかったら、駐車場に忘れてきた鞄なんてソッコーで持っていかれ、そのまま戻ってくるはずがない。少なくともカネは抜かれる。たぶんモールでカメラがない場所なんてトイレの中くらいだと思う。

まあ、とにかく正月早々、なかなかな事件に遭遇した。因みに当の本人はこれに懲りたのか帰り道の車中で「もう買い物に行く時は、ハンドバッグはやめてリュックかショルダーにする」と言っていた。

今回の教訓。
荷物が複数あるときは、最後にもう一度忘れ物がないか確認しましょう。