ニガテ

人間って、ざっくり二種に分類できる気がする。それは、モノを教えることが得意な人と苦手な人。そして自分は間違いなく後者。

ぶっちゃけ、モノを憶えることはそんなに苦手じゃない。興味の持てる事柄についてなら、独学でイケることが多い。たとえばコンピュータ関係。古くはワープロ、そしてパソコン、このあたりは誰にも使い方を習っていない。ほぼ独学。Macに転向した時なんかでも一番最初に「初めてのMacintosh」みたいな本を一冊買っただけで後はiOSも含めて全部自力。

しかしこれが、憶えたことを他人に教えるとなると、途端に全く話が違ってくる。自分が基本的に何事に関しても「習うより慣れろ」的な人間なので、とにかく人に何かを教えることが苦手。

それでも最近、どうしてもモノを教えなければならない事態が発生した。それは、うちの両親がとうとうスマホデビューを果たすことになったから。ある日、自分がガラケーをタダでスマホに変えた、という話を母ちゃんとしたら「タダなら私らももう変えるわ」と言い出した。まあ確かにこれ以上ガラケーにしがみついてもいずれは必ず使えなくなってしまうし、ちょうど今は日本中が暇している時期なのでタイミング的にはちょうどいいかもしれんな、と思った。

とはいえもちろん二人ともスマホなんて触ったことすらないので、使い方をイチから覚えなければならない。家には一応、自分のお古のMacBook ProiPadがあって父ちゃんはちょこちょこ触っているけれど母ちゃんは一切ノータッチ。ネット通販や何かしらのWebでの手続き(たとえばESTAとか)なんかは結局全部自分がやっている。

それでもまあスマホに変えると決めたなら早いほうがいいと思い、母ちゃんを連れてショップへ行き、機種変更をした。その際、お得感を重視するならPixelかXperiaだと思ったけれど、自分が使い方を教えるとなるとiPhoneじゃないと難しいので、だいぶ型落ちになってしまうけれど二台とも無難なiPhone 7にしておいた。どうせたいした使い方はしないのだし、別に充分な気がした。

で、セットアップはショップでやってもらい、ガラスの保護フィルムだけ買って帰宅し、そのフィルムを貼ってから端末の設定をまず自分がやった。自宅に飛んでいるWi-Fiを掴んで保存し、モバイルネットワークやバックグラウンドでは一切システムやアプリ等の更新はしない(自動更新もオフ)とか、プライバシー関係の設定とか、iCloudとか、メールとか、広告ブロックとか、必要なアプリを入れて、基本的には自分のiPhoneと同じ構成にした。それぞれの端末にApple IDは割り振ったけれど、管理しやすくするためにAppStoreは自分のIDにしておいた。要するに二台とも自分のiPhoneとして扱うことにして自由にアプリを入れたりはできないようにし、あらゆる各種設定は触らせないようにした。当然、二人ともプライバシーは全くなくなり、何をやっても何もかも自分に丸見えになってしまうけれど、今更隠し事なんか別にないだろうし、そもそも隠れて何かをスマホでやれるようなスキルもないだろうから、とくに問題はなかった。何せド素人にとってネットワークの世界はとにかく罠が多すぎるので、「余計なことはしないように」と釘を刺しておく必要があった。

そうしてある程度ガチガチに設定してから、端末をそれぞれに渡し、リビングでスマホ教室を開始した。まずは何はともあれロック画面を解除してホーム画面に移動することから教え、電話の掛け方を覚えさせた。スマホの基本は電話なので、電話がかけられなかったら話にならないし、その方法だけでもガラケーとは勝手が違うので、覚える必要がある。因みにショップへ行く前の段階で予め家のMacApple IDとYahoo! IDは作っておき、連絡先も二人分作成しておいた。尤も父ちゃんのApple IDは家のMacを使うためにもともと作ってあったのでそれを流用した。

電話の次は、お互いにテレビ電話ができるようにFaceTimeの使い方を教え、ひとまず母ちゃんは「ここまででいい」というので解放し、続けて父ちゃんにだけMacと連携してあるSafariやカレンダーといったApple謹製のアプリの使い方の基本を教えた。

初日はまあこれくらいでスマホ教室を終了した。それから後日、時間を作っては、文字入力の方法とかカメラの使い方とかを教えた。尤も一回口で言ってやらせたくらいでは全然覚えられないので、各種アプリの使い方の手順に関してはノートを取らせた。やっぱりなんでも紙にペンで書いたほうが覚えやすいと思う。

それにしても、当たり前のことだけれど、二人ともこっちがイライラしてくるくらい理解が遅い。「なんでそんな簡単なことがわからんの?」とか「だからそれはこうだって」とか言いたくなることの連続で、地道に教え込んでいくことはなかなか大変。向こうは向こうで「ちょっと、あんたは早過ぎる」とか「最初からもっとゆっくりやって」とか苦情を言ってくるし、とにかく時間がかかる。それでも基本的には「好きに触れ、で、行き詰まったら、とにかくホームボタンを押せ」と教えた。何せ対面でならひとつひとつ教えられるけれど、一緒にいないときに電話をかけてきて「ちょっと、なんか変な画面が出た、これどうするの?」とか訊かれても、正直よくわからない。なので根本的な考え方として、何かやっていて「許可しますか?」みたいなアラートが出たら「ひとまず『いいえ』で拒否しておけ」、何かアプリを使っていて混乱してしまったら「ひとまずホームボタンを押して終了してしまえ」と言っておいた。で、その状況をメモしておいて、次に自分が行った時に教える、ということにしておいた。とにかくいろいろと勝手にやらせたらどうなるかわかったものではないので、「要らんことはするな」と念を押しておいた。

それでも、なんやかんや言いながら、今では二人ともまあまあそれなりに使っている。母ちゃんは、なんか知らんけどYouTubeをよく観ているし、PayPayも使っているし(これは最近自分が使うようになったのでチャージの方法とか払い方とか教えた)、父ちゃんはYahoo!ニュースや天気の通知が来る度に律儀に反応していたりする。というか、この頃は家へ行く度に二人ともチマチマとスマホを弄っていてなんか笑える。完全に新しいオモチャ。

因みにケースは、自分のPixel用をAmazonで注文したときに、ついでにiFaceの色違いをお揃いで買って、あげた。