捨てたもんじゃない

つい最近、まさに「世の中、捨てたもんじゃないな」と思う出来事があった。これは自分がそう思っただけでなく、人に話してもその全員が「マジか?」とか「本当かよ」とか「今どき信じられんな」とか「そんなことあるの?」とか、みんな基本的にほぼ同じ反応で、結局のところ「世の中、捨てたもんじゃないな」という自分と同じような結論じみた感想を抱いたようだった。

で、その出来事とは、繁華街の路上で落としたモノが戻ってきたこと。しかも、いつどこで落としたのか全くわからないどころか、落とした自覚すらなくて、或る時、ふと無いことに気づいて、それから動いたら、結果的に戻ってきた。

その落としたものは、小さなポーチみたいなカードケース。アメリカのブランドのモノだけれど、べつに高級品でも何でもなく、中身は交通系ICカードと小銭くらいが入っていただけ。金額的には、ICカードにチャージされていたのは、よく覚えていないけれど、たぶん五千円くらい。現金なんて数百円程度のチャリ銭。しかし、カードは無記名なので使おうと思えば誰でも使えるし、小銭もコーヒー代くらいにはなる。だから、それを落としたことにたまたま気づいた時には反射的に、どこかで落としたなら出てくるわけないな、と思ったし、自分の行動圏内で探せるところは探したけれど見つからなかった時点で、たぶんどこかで落としたんだろうけど……まあどうしようもないな、と諦めた。

それでも、もしかしたら警察に届けられているかも、とほとんど期待はせずに、ちょっと訊くだけ訊いてみようか、くらいの考えで、警察の問い合わせ先みたいな部署についてネットで検索してみた。いきなり警察署や交番へ行っていいものなのかわからなかったし、こういう時は警察の中のどこへ問い合わせたらいいのかさえわからなかったので、その疑問を解決するためにググってみた。そうしたら、今どきは警察のウェブサイトに落とし物検索のページがあって、オンラインで検索できるようになっていた。

で、アクセスしてみると、モノによって分類されていたので、パスケースとか財布とかのページで、一覧の中から自分のらしいものはないかと見ていった。そうしたら、リストには写真が載っているわけではなく、色とか中身とかが簡単に記されているだけなのだけれども、警察に届けられた日時や拾得場所がどうも自分の行動範囲内っぽくてなんとも疑わしげなモノがひとつ掲載されていた。

そこで、電話で問い合わせてもよかったけれど、保管場所になっている警察署はまあまあ近いので、直接行ってみた。そうしたら、ビンゴだった。これにはマジで驚いた。まさか本当に出てくるとは思わなかったし、思っていなかった。正直、ICカードも現金も、落とした自分が悪いのだから、まあ仕方ないと諦めていて(そもそもいつどこでなくしたのかもわからないくらいだったし)、警察へ行ったのもダメ元だった。たいした額ではないけど、カードも小銭もいちおう名前のないカネ目のモノだから、拾って抜かれたらそれだけのことだし。

それが、この世知辛いご時世に、手元に戻ってきた。

因みに、ポーチにもその中身にも名前など一切記されているわけでもないそれが、どうやってこちらの遺失物と証明できて受け取れたかというと、「中に何が入ってましたか?」という向こうの質問に対するこちらの自己申告の解答だけではなく、もっと確実っぽく証明できる方法が更に別にあって、なるほどな、と感心した。ただ、何で証明できたのか明らかにしちゃっていいものかどうかわからないので、そのへんは勿体ぶるつもりはないけれど、いちおうここでは伏せておく。

しかし、もうほんと、どんな人が拾って警察に届けてくれたのかわからないけれど(警察には記録されているけれど個人情報なのでこちらには伝わらない)、その人には感謝しかない。今後、もしもいつかどこかで何かを拾ったら、たとえそれが中に百万入っている財布だったとしても、警察にちゃんと届けようと思った。