市中にフツウにいる模様

だいたい月に一度、生命を維持していくために必要なクスリをもらいに病院へ行く。といっても別にシリアスな話ではなく、もらってくるクスリはデパスとか眠剤とかロキソニンとかガスターとか、そういうモノ。本当は薬だけくれりゃいいのだけれど診察を受けないと処方箋が出ないから、仕方なく行く。

その病院には、ばあちゃんが入院しているから、病棟のロックダウン前までは見舞いのついでに診察室に寄っていたけれど、今は同じ建物にいるのに会えず、診察を受けるためだけにほとんどアウェイ感覚の外来へ行く。病棟なら看護部長さんをはじめ看護婦さんとかヘルパーさんとか知り合いだらけだけれど、外来は主治医の院長先生以外ほとんど知らないし、一部の事務員さんくらいしか親しくない。つまり、居心地が良くない。

ま、それはともかく、先日、病院へ行き、検温して待合室にいると、派手めのお水っぽい女が入ってきて、事務員さんが入り口で検温すると発熱していたらしく、待合室の外れに作ってある発熱者用のエリアへ座らせ、院長先生に報告しに診察室へ消えた。そして戻ってくると、ここでは診られないから、と新型コロナ用の施設へ行くように案内を渡して帰らせた。この病院は最初から一切新コロの患者を受けていない。

その一連の遣り取りを、そのとき待合室にいた人全員が見ていたのだけれど、お水っぽい姉ちゃんが帰っていくと、室内の空気感が明らかに変わった。対応していた事務員さんが知っている人だったので「もしかして?」と訊くと、なんか慣れた感じで「たぶんね」と言っていた。

このように、世の中はもうすっかり弛んでいるけれど、街中には普通に怪しい人たちがいる。ちょっと前には、外来の診察時間外に、ばあちゃんの荷物を持っていった時、まるで映画で見るような白い防護服を着て何かやっている二人組も見た。あの時は確実にコロった患者がいたのだと思う。

要するに、なんか世の中はもうなんとなく収束ムードだけれど、街の病院は未だに最前線で危険に晒されていて、厳戒態勢は全く解かれていない。つまり、個人的な問題として、新コロのせいで入院しているばあちゃんにぜんぜん会えない。ただでさえボケてるのに、ある意味面会謝絶状態みたいなものなので、とにかく外部からの刺激がないため、ボケが明らかに進んでいて、個人的には新コロが憎くて仕方ない。身内に病人や老人を抱えている人たちは、新コロと新コロを本気で封じ込める気概が感じられない政治家どもと新コロをナメきっている世間の風潮と雰囲気に、たいていムカついていると思う。ずっと髪を切ってもらってる美容師の子もお母さんが入院していて、うちと同じように全く会えないので「GO TOとか、ほんといい加減にしてほしい」と言っていた。美容室の場合、職場もいつクラスターを出してしまうかわからないから、公私両面で大変そう。

なので、病院が相変わらずこんな状況なのに、何がGO TOだと思う。トラベルもイートも大概にしとけ、と腹が立つ。いくらお得だろうが、絶対に使わない。たかがしれてるせいぜい数万の割引やクーポンなんぞ、乞食じゃないんだから、そんなもん要らん。

まるで遊びに行きたい免罪符のように「経済が死ぬ」とか言うけど、こっちはもう生活が死んどるわ、という感じでイラつく。経済なんか地元で回しとけばいい。旅行がしたけりゃいちいち恩着せがましく日本経済なんか憂うことなく勝手に黙って行けばいい。

ただ、普通に新コロはまだそこら中で頑張ってるみたいだけど。

また、関東からの旅行者がインタビューなんかで「東京からなので受け入れられるか心配していたけれど、みなさん暖かく迎えてくださって良かったです」みたいによく答えているけれど、そんなもの観光客相手の商売人の愛想が良いのは当たり前。観光で食ってない地元の人はみんな、ガラガラとキャリーを引いている連中を見れば(何しに来た?とっとと帰れや)と思ってるに決まってる。

つうか、どいつもこいつも「旅行旅行」といい加減うるさい。ふだん、たぶん人より多めに旅行してるうちらからすると「あんたら、そんなにいつも旅行なんかしてないやろ」と言いたくなる。

いずれにしても、トラベルだのイートだの、どうでもいいから勝手にやって、さっさと終わって、という感じ。だいたい本当に各業界の末端を救済する気があるならトラベルもイートも予約サイトとか中抜き業者と癒着せず、五万くらいの旅行券と食事券を世帯単位で撒けば済む話。その方が、そんなもん要らんという人は額面五万を三万で知人に譲ったり金券屋に売ったり、逆に譲ってもらったり買ったり、欲しい人と要らない人、両者がwin-winで、GO TOなんかよりよっぽどダイレクトに勝手に経済がドライブしていくと思う。

確かに、たいていの人は仮に罹患しても、まあ死ぬことはないかもしれない。けれど、政府やマスコミが流布する最近のウイルス軽視のムードに安易に流されるのは、ちょっと考えたほうがいい気はする。まだ確実に有効な薬はないのに、危機感が希薄になり過ぎている。必要以上に脅され、ビビる必要はないものの、結局、なんやかんや言ってもこの国はムラ社会なので、感染したり感染させたりしたら袋叩き不可避。もしも「経済回す」を錦の御旗に掲げて旅行したりメシを食いに行ったりしていて、どこかで感染しようものなら、あっという間に掌返しに遭う。手洗い・嗽・マスク・アルコール消毒、これらをどれだけちゃんとやっていても、おそらく感染るときは感染ってしまいそう。自分だって、かなり警戒していて、なるべくリスクは回避しながら、できる限りの対策はしているつもりだけれど、かといってずっと家に引きこもってるわけにはいかないし、それなりに出歩いてはいるので絶対に感染しない自信なんか全くないし、感染する時はしてしまうと思っている。だから、旅行にしろメシにしろ、出歩くなら、もしもの時のために、大きな声で主張せずに楽しんだ方がいい。黙ってりゃバレにくいし、バレても誤魔化しやすい。

ただまあ、これだけ世の中が弛緩してくると、自分だって正直、身内に病人や老人がいなくて、医療機関と縁がなく、現状を知らなかったら、「ゴーツー安いな、どっか行かなきゃ損だろ」とか「コロってる奴なんか周りに誰もいないし、もうええやろ」とか言いながら、どこかへ出かけていそうな気はする。