空いている

所謂アラウンド・ハンドレッドのばあちゃんが入院している(とはいえ相変わらず口は達者でまあまあ元気にしてる)ので、帰りに回り道して夕食の時間帯に間に合うようにしょっちゅう病院へ寄っているのだけれど、コロナウイルス騒動が始まって以来、外来の待合室の様子が変わってきた。多い時は夜の部で2、30人もいることがあるくらいけっこう混んでることが多いのに、逆に寧ろ病院の方が危ないと思われてるのか、最近はいつ見ても4、5人くらいまで激減していて、ガラガラに空いている。

そのことを病棟担当の馴染みの看護婦さんとの雑談中に言ってみた。
「なんか外来の数が減ってるように見えるのは、気のせい?」
すると、
「気のせいじゃないよ」
という返事が返ってきた。
「ほんとうに減ってる。というか病気でどうしても受診する必要のある人しか来ない。『不要不急の外出は控えましょう』というお達しが効いているみたいで、いつも来る常連のおじいちゃんおばあちゃん達がぜんぜん来ていないの」
ということで、実際に激減しているらしい。
ついでに、
「病院関係者はコロナウイルスに何か特別な対策してるの?」
と訊いてみると、
「別に特に何も」
と答え、言った。
「一応うちらとかヘルパーさんとか待合を通るときは、なるべく患者さんがいない時間に、とか言われてるけど」

正直、あまり緊張感は感じられない。油断はしていないだろうけれど、必要以上に怯えている雰囲気はないっぽい。病院の入り口には告知看板があって、コロナウイルスの感染が疑われる場合は病院内に入らずまずはどこだかのセンターへ連絡してくれ、という趣旨の案内が日本語だけでなく中国語とか外国語も併記して出ているけれど、いつもと違うのはそれくらい。つまり基本的にウイルスのキャリアは院内に入れない、ということになっている。受付の事務員さんとかもマスクはしていないし、仲の良いヘルパーさんと話すと「結局、もしも感染しても、体力のないお年寄りとかじゃない限り、今のところは死なないっぽいし、ちょっとタチの悪い風邪みたいな感じじゃないの? 薬もないみたいだし」ということを言っていて、やはりそんなに身構えている感じはなく、呑気な会話が続いた。
「ていうか、武漢ってどこよ、という感じ。知ってた?」
とヘルパーさんが言い、首を振った。
「いや、知らん。中国の都市なんて北京と上海と深センくらいしかわからん」
「わたしも。でもニュースで現地の病院の様子を見るとすごくない? 映画みたい」
「病院内は患者で溢れていて、防護服を着た人がなんか薬剤撒いて……エボラとかのアウトブレイクか、って」
「だよねー」
と、こんな感じ。もうばあちゃんの入院が長いので、歳が近い感じの親しい看護婦さんやヘルパーさんとは、いつからか友達みたいなノリで喋るようになってしまっている。もちろんある程度の節度は互いに守っているけれど。

それはともかく、まあ実際、もしも感染の危機に晒されてもマスク程度ではどうせ防げないし、どうしたらいいかわからない。一般人にできることは人混みを避けることくらい。とくに中国人がたくさん来るような場所は、やはり避けたい。この感覚は別に民族的差別ではなく、単なる自己防衛。中国人観光客全員がキャリアではないだろうけれど、ウイルスが中国から持ち込まれていることは事実なので、なるべく接触を避けることが手っ取り早い。

しかし当たり前のことだけれどウイルスは目に見えないし、感染しているのはもう中国人だけではない。だから特定の国の人を対象にするのではなく、現実的には、用事がない限りはなるべく人混みを避けるくらいしか、予防的にできることはない感じ。

というか仮に感染して発症しても症状が「発熱」と「咳」では風邪との違いがわからないから、どのタイミングで医療機関にかかるべきか、判断が難しい。もしも今、熱が上がって咳が出ても、いつものように風邪薬を服んで寝ていそう。ちょっとした風邪くらいでは滅多に病院へは行かない。面倒くさい(病棟はよく行くけど診察室はまた話が別)。

因みに世間ではマスクが品薄らしいけれど、幸いこれの在庫は山ほどある。もちろん今回の騒動で買い貯めたわけではなく、どうせ毎年花粉症の季節にはつけないといけないので、去年コストコでデカい箱入りを買った。だから、基本的にいつ行っても箱で売ってたから「マスクがない」と騒いでいる人はコストコへ行けばあるんじゃないか、と思う。まあ、もうないかもしれないけれど。