自力リペア

ちょっと前に「久々に使おうかな」と思い、ずっとしまってあった古いルイヴィトンのショルダーバッグを引っ張り出してきたら、知らないうちに壊れていた。鞄が壊れていたというとイミフかもしれないけれど、バッグのフラップを留める肝心要なリベットのようなカシメが取れてしまっていた。それも三つのうちの二つが取れてしまっていて、鞄として崩壊していた。

このバッグはソミュールという今ではもう廃盤になっているとても古いモデル。海外に行き始めてすぐの頃にシンガポールのヴィトンの店で買ったのでもう二十年以上前の骨董品。いくらで買ったかはもう憶えていないけれど、自分が買えるくらいだからそんなにめちゃくちゃ高くはなかったはず。しかし今、ほぼ同じ型のものが微妙に名前を変えて売られているのだけれど、公式サイトで値段を見て驚いた。いつの間にか18万とかになっていた。ま、このところのヴィトンはガンガン値上げしていて、全体的に高くなっていることは感じていた。というのも、数年前にハワイで泊まっていたホテルの中のヴィトンで「たまには財布でも買うか」と思って見てみたら日本円で7、8万もしたのでさっさと撤退したことがあったから。財布なんてせいぜい4、5万だろうと思っていたので、単純に今のヴィトンの値段は昔に比べてほぼほぼ「倍」になっている感じがする。

それはともかく、いくらブランド物でも壊れたままにしておいたらただのゴミなので、ずっといつか直そうとは思っていたものの、なんとなくズルズルと先延ばしにしていた。しかし先日「やっぱ直そう」と一念発起し、ヴィトンへ持っていった。事前にネットでいくらくらいかかるものなのか調べてみたのだけれど、よくわからなかった。とはいえ、いくらヴィトンといっても直すのはカシメ二個なので、どんだけぼったくられても1万もしないくらいだろう、という心算で出かけた。基本的にヴィトンに限らずブランド物は新品を正規店かギャラリアでしか買わないので、偽物を掴まされている可能性は全くない。だからこういう時には堂々と正規店へ持ち込める。

で、店に着き、店員のお姉さんにブツを見せて「直して欲しいんだけど」というと、いったん奥に持っていって、数分後、見積もりを持って戻ってきた。そして、驚愕の事態に直面した。お姉さんの説明によると、カシメ自体は、七千円で打てる、と言った。正直(こんなもんで七千円かよ)とは思ったけれど、想定内というか一万以内だったので、頼もうと思った。しかし、話には続きがあった。この古い鞄にはカシメ以外にも直すべき箇所がいくつかあり、それら全部の箇所を直す必要があって、その総合的な修理しか受けられない、と言われた。つまり、カシメだけの修理は受けられない、ということだった。しかも、その見積もりの総額がなんやかんやで五万超え。はあ? と思った。たぶん買った時の値段と同じくらいか、ヘタした当時の新品の値段より高いかもしれんぞ、と思いながら、「ちょっと考えます」と答え、そのまま持って帰ってきた。お姉さんは「ぜひ直して長くお使いください」みたいなことを言っていたけれど、いくらヴィトンでもこんな古いものに六万近くも出す気はなかった。最近はハイブランドに対する興味がほとんどないので、そんなに出すならアウトドア系のブランドで何か良い物を買った方がいい。

次に、イオンの中に入っている靴やカバンのリペア屋さんへ、とりあえず取れたカシメだけを持って行き、聞いてみた。すると「特殊なカシメなので工場送りになります」と言われ、「ちなみにだいたいいくらくらいですかね?」と訊くと、「モノを見てみないとはっきりしたことは言えないけれど、だいたい一発三千円くらい」と言われた。(要は六千円か……ということは受けてはくれんかったけど、ほとんどヴィトンと変わらんな、そういう意味では案外正規店も良心的な値段を出すんだな)と思いながら、「お願いする時はまた持ってきます」と答えてひとまず帰ってきた。

ここでいったん立ち止まり、考えた。別にずっと放ってあった物なのだから今更慌てて動くこともないので、一度落ち着いて頭の中を整理しようと思った。まず、ヴィトンでの修理は論外というか、却下。ほぼ六万なんて出せないし、出す気もない。町のリペア屋さんは、まあ高い気はするけれど、とりあえず頼めば六千円くらいで直してはもらえそう。つまり六千円出す気があるなら取り敢えずは直るということ。しかし、そこでふとある考えが頭をよぎった。

ぶっちゃけ、カシメくらい自分で打てるんじゃねえか?

で、一回自分でやってみて、どうしてもうまくいかず失敗したらリペア屋へ持っていけばいいんじゃないか? つまりリペア屋をセーフティネットにして、試しに自力でやってみたらええやんけ、と思った。

ただ、単体のカシメがいくらするのか全然知らない。なのでネット検索すると、サイズとかよくわからんけれど、数百円で何個も入っているものが多く見つかった。めっちゃくちゃ安いやん、と思い、これはもうやってみるしかないな、と決心した。

それから数日後、壊れたカシメを持って東急ハンズへ出かけた。実はその前に百均やホムセンにも行ったのだけれど、レザークラフトに使うようなカシメは売っていなかった。なので、とにかくこういうコトの最後の砦は絶対にハンズだろう、ここでダメならもう潔く諦めて修理にだそう、と思いながら、店へ行った。

で、クラフト用品のフロアに着くと、店員さんに声をかけて「これと同じようなカシメが欲しいんですけど」と壊れたカシメを見せてお願いした。自分で探すにはどこにあるのかわからなかったし、そもそもカシメなんか打った経験がないので、どんな種類を買えばいいか皆目見当がつかない。だから、最初からプロに聞いた方が話が早いと思った。すると店員さんはカシメを見て「うちにある物だと刻印なしになりますけど」と言った。もちろんそれは承知しているので「実はこれはヴィトンなのだけれど修理に出すと高すぎるので自分でやろうかと」と簡単に事情を説明して、同じような金色で同じようなサイズのカシメを選んでもらった。店員さん曰く「ブランド物の正規店での修理代は高すぎるので自分でやってみる、という人は結構いる」とのことだった。ついでに、打つ道具として打ち棒も選んでもらった。本当は打ち台や木槌なんかも必要みたいだったけれど、趣味でずっとやるわけでもないし、コストはなるべく抑えたい旨を告げたら「取り敢えず打ち棒だけはあった方がいい、後は、台は板切れか古雑誌、木槌はトンカチで代用できる」とのことだった。因みにカシメと打ち棒で値段は五百円ちょっとだった。

そして、帰宅すると、早速やってみた。店員さんに「初めてなのだけれど」と素直に打ち明けて作業のコツを聞いたのだけれど、そうしたら「とにかく一発で躊躇なくガツンと打ち込んでください」と言われたので、その通りに二箇所、ガツンと打ち込んだ。

すると、生まれて初めてやったのだけれど、呆気ないくらい簡単に打ち込めた。打った後、強引にフラップを引っ張ったりしてみたけれど、ガッツリと嵌っていて、全く外れなかった。見た目も、よく見ればリベットの表面に刻印はないけれど、特に違和感はなかった。別に中古で売るつもりはないし、もうこれを正規店へ修理に出すことはないだろうから、純正のカシメが嵌っていなくても何の問題もなかった。カシメなんて全然目立たないし、ガッツリと打ち込めたからバッグとしての機能的な問題は何もなく、再びふつうに使えるようになった。

というわけで。
ヴィトンでの正規の修理代の約100分の1、街のリペア屋の約10分の1の値段で無事にバッグを復活させることができてしまった。

ほんと、試しにやってみてよかった。結果論になるけれど、いざやってみると、うだうだと考えていたことがアホくさく思えるくらいめちゃくちゃ簡単だった。道具を準備して、作業して、片付けるまで、全部で五分もかからなかった。

因みに下の画像が完成形。

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