嫌いというか苦手

自分の中には明らかに嫌いというか、どうにも苦手なものがある。それは「予約」。なんかそれをした時点から生活がその「予約」に掌握され、気持ちの奥に打ち込まれた楔のように感じられてしまう。ただ、これを他人に言うと、軽く笑われながら、こんなふうに言われる。

「都合が悪くなったらキャンセルすればいいじゃん」

と。

確かに、それくらい頭ではわかっているのだけれど、自分の性格としてキャンセルは、できる限りしたくないという気持ちが強い。キャンセル料が発生する、みたいな実質的な損害が生じるパターンではなく、べつにキャンセル料を取られることも、それによって今後不都合が生じるようなことなどもなくても、なぜか一度予約したものはそのまま完遂したいという気持ちがかなり強い。というか、もともと買い物なんかでも、キャンセルした記憶ってない。

そんな性質なので、なるべく「予約」というものはしたくない。実際、ご飯屋さんの予約なんて、まずしない。そもそも予約を入れないと食えないような店は、よほどのことがない限り選択肢に入らず、行かない。例外は忘年会とかの宴会系だけれども、今は時勢的に全くない。尤も宴会やパーティー系は好きではないので、新コロによる自粛は良い傾向なのだけれども。金主がいるならまだしも、会費制の飲み会だと、下戸の自分は絶対に元が取れないので、行かなくて済むなら行きたくない。

しかし、飲み会系はともかくとして、そうはいっても日常の中にはどうしても「予約」が避けられないものがある。たとえば、このまえのワクチン接種もそうだし、外来でかかっている病院なんかもそう。また、旅行なんかも、車で行くなら宿泊だけで済むけれど、鉄道や飛行機など交通機関を利用する場合は、その乗り物も予約が必要な場合が多い。そもそも旅行の場合は、ちょっと遠くの場合は、スケルトンのパッケージツアーを使うことが多いので、その申し込み自体に予約が発生し、確定した瞬間からその出発日のことが気になりだす。

しかし旅行で予約がいるのは、仕方ないといえば仕方ない話で、諦めるしかない。思い立ったが吉日とばかりに、いつでもすぐにどこにでも行ける身分なら予約なんかどうにでもなるだろうけれど、なかなかそうもいかない。自分なんかは、予約した時点から「当日の天気はどうかな?」とか「災害とか起きんやろか」とか「自分が体調崩すなんてことはないやろな」と考えても無駄なことをいろいろと考えてしまう。だから、基本的に何ヶ月も前から予約をする「早割」みたいなものは、たとえお得で安くなったとしても、手が出せない。何ヶ月も先のことなんて、まあ実際には別に特に何もないのだけれど、うまく想像できない精神構造になっているっぽい。たとえば年明け早々にもうお盆の予約を取るとか、絶対にできない。そんな先の話はそもそも生きているかどうかすらわからんやないか、と思ってしまう。なので、予約の必要な旅行は、国内外問わず、いつもけっこうギリギリのタイミングで予約している気がする。尤も今は関係ないからどうでもいいけど。

まあ旅行なんて非日常的な単発のイベント系はともかく、もっと日常的な予約で常々「面倒くせえなあ」とか「予約なしにならんやろか」とか思っているのが、散髪。要は、美容院。尤も散髪は「予約が嫌なら不要な店に行けばいいやろ」という話なのだけれど、髪はなるべく慣れたところで慣れている人に切ってもらいたい。ふだんから慣れた店の慣れた人に切ってもらっていると、髪型とかいちいち注文したりしなくても済むし、ちょっと雰囲気を変えたいと思うときでも微妙なニュアンスが伝わりやすいし、こちらの髪質とか生え方の癖とかもわかってくれているので、基本的には「お任せ」でいけて、この気軽さはプライスレス。となると、いま行っているところは予約必須なので、現状では予約が避けられない。しかもだいたい一週間くらい前にはしないと土日なんかは希望する日時が埋まってしまう。そして、その予約をした時点で、当日までそのスケジュールに縛られる感が生じて、「もしも雨が降ったりしたら行きたくねえな」とか、なんとも窮屈な気持ちになる。べつに都合が悪くなればタダでキャンセルできるのだけれど、気分的に「絶対にその時間に行かなくては」という感じになってしまう。

ただ、不思議なもので、誰か人と会う約束は、そんなに苦にならない。好きか嫌いかと問われれば嫌いではあるけれど、予約ほど気持的に追い詰められる感はない。その理由はちょっとわからない。「◯月◯日の◯時に、◯◯で」的なテンプレ通りのような約束は、なぜかあまりプレッシャーにはならない。