急速ダイエット

ふだん、暑い時期にダイエットはしない。もともと暑さに超弱いし、熱中症になりやすい体質なので、夏は怖い。だから体力を少しでも温存しておくために、寧ろ他の季節より食うし、動かない。だからたいていは太る。というかもうこの頃は冬場より明らかに若干弛み始めていた。なんかカラダが重くなってきたか? という自覚もあった。

しかし今年はちょっと事情があって痩せなければならなくなってしまった。それもかなり急速に、一気に結果を出さなければならない状況に追い込まれてしまった。

理由は、親戚の法事。来月にあるのだけれど、ふだんその手の行事は面倒臭いので滑ったとか転んだとか適当な理由を駆使してたいてい行かないのだけれど、今回は絶対に来るように言われて、仕方なく承諾したのだけれど、そこで重大な問題が発覚してしまった。このところ何年も結婚式も葬式もないため、なんかムシが知らせたのか、試しに礼服を着てみたら、なんとウエストがキツキツで、相当無理をして腹を押し込まないと前が閉まらなくなってしまっていた。なんとか腹を凹ませつつ穿いて閉めれば閉まらないことはなかったけれど、そのまま何時間も穿いていたら確実に気持ち悪くなりそうだった。だから、急遽、超高速ダイエットに突入せざるを得なくなった。

もちろん「礼服のズボンなんてちょっとウエストを出して大きくすればええやん」とか「いっそ安いの買えよ」とか、そう言われそうなのはわかる。でも個人的にそうはいかない切実な事情がある。

それは、手持ちのスーツの中で唯一の礼服である黒いスーツは、もはや死語になりつつあるかもしれないけれど、所謂『一張羅』だから。二十代の前半の頃に礼服が初めて必要になった時、「どうせそうそう着るものでもないし、礼服なんて流行り廃りもないしな」と思いながら、清水の舞台から飛び降りるような気持ちで「せっかくだから良いものにしよう」と、かなり奮発してG・アルマーニの黒いスーツを買った。まあ、分不相応感はバリバリだったけれど「一生着られるしな」と自分に言い聞かせた。

以来、冠婚葬祭ではまるで子供の学生服のようにそればかり着ているのだけれど、ここ何年かは全く着る機会がなかったので、完全に油断していた。今度の法要に出るように言われたときに、正直、なんか嫌な予感はした。で、(着れるかな?)と試しに久々に着てみたのだけれど、そうしたら危惧した通りウエストが苦しくて(ヤバい)となった。それでもある意味、まだ一ヶ月以上の時間的余裕がある時点でウエストがキツいことに気付けてよかった。もしも全く気にしないまま当日まで過ごしていたら、と想像すると、ゾッとする。この先、何もせずに当日を迎えていたら、今よりももっと太っていただろうから、散々な目に遭うところだった。今の、無理すればなんとか前が閉まる状態からなら、経験上、まだなんとかなる。そうとう肥えても、上着が着られなくなるようなことは滅多にない。太ってダメになるのはたいていズボン。というか上着が着られないほど太ってしまったら、たぶんもうちょっとやそっとではどうにもならないと思う。つまり、腹がキツいくらいなら、まだマシで、救いがあるということ。

ただ、実は安物の礼服も持っていることは持っている。それは「なんか偉そうに見られると拙い」という場合用に、アルマーニの数年後に買った。でもこれは完全に冬服なので今の時期は着られないし、一応は試しに穿いてみたけれと、やはりキツかった。まあ、ほぼ同じサイズの服なのでそれは当たり前のことで、スーツに限らず服はどれもサイズに大差ないので、着られなくなる時はほぼほぼ全部ダメになってしまう。

というわけで、今、かなり過酷なダイエットをしている。方法としては、いつものように基本は糖質制限。冬場ならそれに運動を加えるけれど、夏の今は体質的に無理なので、とにかく「食わない」という手で攻めている。尤も糖質制限といってもそんなに数値にシビアになりながらやるわけではなくて、体重計にも乗らないし、ざっくりと炭水化物をシャットアウトしながら、体重という数字の変化には一切捉われず、見た目の体型の変化を重視して絞っていく感じ。但し間食は厳密にNG。ケーキとかお菓子とかは食べない。また飲み物は、本来なら水やお茶がいいのだろうけれど、この時期のスポドリは命綱だし、風呂上がりのコーラは最高なので、ジュース系はゼロに限って許可。でもまあ基本的には炭酸水。それも刺激が強めのやつ。で、この方法を挫折せずに継続させるコツとしては、始める前にとりあえず食べたい炭水化物系の食い物を食っておくこと。自分の場合はスパゲッティとかピザとかハンバーガーとかラーメンとかを食べてから「よし、断つぞ」とスタートさせる。そして最低でも最初の一週間から十日くらいはギリギリまで追い込む。

実際、人間なんて食わなければ痩せる。「美味しいものを我慢せずに食べながら楽しくダイエット♪」なんてムシのいい事を言っていたら、なかなか結果なんか出ない。

むろん、極端な食事の節制がカラダによくないことはわかっている。でも、一生続けるわけではないし、なんとしても結果が欲しい場合はリスクとリターンを天秤に掛けて自分で判断していくしかない。何せ糖質制限は誰でもすぐに簡単に結果が出る。早ければ一週間もしないうちに水分が抜けるというか浮腫が取れて、なんかシュッとしてくる。尤もその時点ではまだ肉は落ちていないので、そこからが真の戦いになるのだけれど、別に絶食するわけではないし、シンプルにパン・米・麺・イモをガマンすれば良いだけで、ステーキとか牛豚鷄羊などの肉は食えるから、目標と決意があればまあなんとかなる。とはいえ期間中のメニューは基本的にサラダチキンと卵と豆腐とサラダで、まるで虫みたいな食生活にはなる。けれども虫と少し違うのは、それらに加えて、ほぼ必ずといっていいほど食べるものがあること。その食べ物とは、日本人のスーパーパワーフードである味噌汁。味噌汁くらいは自分のような料理なんかできない人間でも作れるし、何よりけっこう腹も膨れる。因みに具は豆腐とワカメが好みでメイン。

ま、何はともあれ個人的に、ダイエットは禁煙と似ていると思う。

要は、気合。