べつに、なんとなく

このまえ同性の友人と道を歩いていて下水かガスか何かの工事に出くわした。工事は歩道を潰して行われていて、車道にはみ出すように迂回路が作られていた。で、そのまま迂回路を通り、再び歩道に戻ったところに制服を着た警備員というか誘導員のおじさんがいて(どうぞ)みたいに手で進路を示し会釈した。それを受けて、こっちも小さく会釈を返した。そうしたら少しそこから離れてから隣を歩いていた友が言った。

「おまへ、なんで会釈なんか返すの?」
「は?」
「今、工事の人にぴょこっと頭下げてたやん」
「べつに理由なんかないわ、会釈されたから返しただけやわ」
「ふうん」
「おかしいか?」
「おかしくはないけど、おれはしたことないし、しないな」

実際、深い理由なんかない。会釈されたから返しただけで、当たり前だけれど、向こうから会釈されなかったら、こっちから頭を下げることはない。というか、そもそも下げる理由がない。だから、とくに何も考えてはおらず、べつになんとなく条件反射で頭を下げ返しただけで、なんで?と問われてもこたえようがなかった。

「おまへって時々周りがびっくりするくらい冷酷なわりに、変に優しい時があるよな」
と友が言った。
「そうか?」
「ある」
「でも基本おれは誰にでも超絶に冷酷だけどな」
「確かにおまへは冷たいけど、必ずじゃないな」
「そうかなー」

そう答えはしたものの、やはり自分は誰にでも基本的に冷たくて、人に対する冷酷さでは地球上でも五本とは言わないが十本の指には入るだろう、という自覚がある。

「まあ、堪忍袋の緒が切れたときのおまへの人の切り捨て方は凄まじいけど。ほんと情け容赦なくバッサリいくしな」

いろいろ見ている友が言い、否定せずこたえた。

「まあな、そのうち周りに誰もいなくなって最後は孤独死ケースだろうな」
「ははは、そこまではいかんやろw」

そんなアホみたいな会話をしながら目的地まで歩いたのだけど、自分の場合、時々他人に優しく見えるのは、優しいのではなく、ただ単に無関心なのだろうな、と思った。根本的に、あまりというかほとんど他人に興味がない。関心がない相手には、敢えて冷たくする必要もない。そして、とくに冷たくもせずに誰かと接すると、時々その様子は優しげに見えるかもしれない。