右手の中指

ちょっと前、数日間、右手の中指が使用不能状態に陥った。というのも爪と皮膚の間に何か微小なササクレのようなモノが刺さって取れなくなってしまったから。刺さった時、すぐにピンセットや毛抜きで摘みだそうとし、実際少しは取れたのだけれど、どうも皮膚の奥にまだ残ってる気がして、更に爪切りでギリギリまで攻めてみたものの、もう何も取れなかったので、いったん諦めた。しかし痛みは続いていたし、明らかに違和感があったので、たぶんまだ何か残っているのだろうとは思ったけれど、既に爪と皮膚の間が血塗れになっていたこともあって、ひとまず傷を治すタイプのちょっと高機能な良いバンドエイドを貼った。

ただ、なかなか痛みはとれないどころか酷くなる一方で、だんだん不自由になってきた。すぐに、まるで突き指でもしたみたいに指先がちょっと何かに触れるだけで飛び上がるほどの鋭い激痛に苛まれるようになってしまった。

つまり、中指がまるで使い物にならなくなった。そうなると、とにかく不便極まりなかった。何せ利き手の右手の指なので、被害は甚大だった。

たとえば単純に箸がちゃんと持てなくなり、左手で食べたりスプーンやフォークの世話にならざるをえなかった。箸ってふだんはまったく気にしないと思うけれど、あんがい中指が重要。もともとおかしな持ち方をしている人ならいいかもしれないけれど、なまじか普通の箸の持ち方をしていると中指を動員しないと上手く操れない。あと、字を書くこと。要は、ボールペン等の筆記具がちゃんと持てないので、ただでさえ下手な字がもっと悲惨になってしまって困った。

また、電話を弄る場合でも文字入力等のフリック入力は親指や人差し指でやるのでとくに問題はないけれど、イラついたのが2本以上の指を使うスワイプ。中指の先端を覆うようにバンドエイドを貼っているので画面が反応せず、四本指スワイプの場合なんかは結果的に親指まで動員せざるを得なくてイライラした。むろんパソコンのトラックパッドも同じで、更にキーボードも中指抜きで、しかも衝撃が響かないようにそっと叩かなければならなかった。

あと、風呂で髪や体を洗う時や、洗面所での洗顔も、不便極まりなかった。歯磨きも中指を使わずに歯ブラシを持って操ることがなかなか困難だった。そして外では時節柄、手指のアルコール消毒が難敵だった。

それでも、そのまま二日くらいはなんとか過ごし、しかし依然としてまだあまりに指先が痛いので一度試しにバンドエイドを剥がしてみた。すると傷になっている部分の肉が修復されつつ盛り上がってきていて、それに押し出されるようにして、皮膚の奥に入り込んでいた小さなササクレの先端まで出てきていた。なので、すかさずピンセットで摘み、引き抜いた。すると呆気ないくらい簡単にするりと抜けた。それは思っていたより大きなササクレだった。

そうして痛みの根源は除去できたものの、ピンセットや爪切りで痛めつけた爪と皮膚の隙間の傷は治っておらず、かなり軽減はされたものの痛み自体は残っていて、やはりしばらくはぜんぜんまともに右手が使えなかった。結局、なんか一週間くらいは痛くてバンドエイドが取れなかった。

しかし、たかが数ミリのササクレひとつで、生活していくうえで必要な人体の機能の一部が著しく制限されてしまうなんて、人間ってけっこう繊細だな、と思った。というかふだんは全く意識していないけれど、中指って実はめちゃくちゃ働いてるんだな、とその存在の重要性を思い知った。