なぜか出てくる

時々、鮮明な夢を見る。とはいえたいてい実在の人物は出てこないし、内容も意味不明なものがほとんど。しかし、定期的というほどではないにしろ、このところ、ある人物がしばしば夢に出てくる。

それは、十代の終わり頃に好きだった女の子。ただ、初恋ではないし、付き合っている間、いろいろなところへ遊びに行ったりしたけれど、期間としてはもっと長い子はいるし、その子だけがそんなに特別というわけでもない。初めてデートしたとか、童貞を捨てたとか、そういうことでもないし、普段から例えば(今は何してるのかな?)などとその子のことをよく考えているわけでもない。むしろ忘れているくらいなのに、夢に出てくる過去の女の子は、なぜかその子だけで正直「何やねん」という感じ。理由が本当にわからない。

もちろん、最近の動向は一切知らない。生きているか死んでいるかも知らない。というかもう何十年前の話なので、向こうもだろうけれど、顔も声もおぼろげで、おそらく道ですれ違ってもわからない。写真はあるはずだけれど、今みたいにデジカメじゃないからコンピュータの中にはないし、アルバムも手元にはなく、そもそもどこにあるかもわからず、つまり一枚の写真も今は持っておらず、頼りは記憶だけだけれど、その記憶がかなり怪しい。もしかしたらSNSとか探りまくれば今のその子と繋がれるかもしれないけれど、心の何処かに(思い出は思い出のままにしておいた方がいい)という思いがあるし、別にそんなに今のその子に興味があるわけでもないから、その気は全くない。だいたい基本的に、別れた昔の女の子を追いかける趣味がない。たぶん、記憶ってかなり美化されているから、現在とはリンクさせないほうがいい。そもそも「女の子」と言っているけれど、実際にはもう完璧に「おばさん」だし、それは「おっさん」になっているこっちも一緒で、もし今もその子の記憶の片隅にこっちのことが残っているとしても、十代のままで時は止まっているから、お互いに会わないほうが幻滅しなくて済むはず。

なのに、この頃とくにその子がしばしば夢に出てくる。顔や声の記憶すら曖昧なのになんでその子とわかるの? と問われるかもしれないけれど、なぜかその点には彼女に間違いないという確信がある。しかも、この前の夢は、妙にリアリティがあったというか、めっちゃ変だった。ストーリーとしては、仕事終わりか何か知らないけれど、普通にこっちが「送っていくわ」という設定になっていて、すると向こうが「どうせだからこのままホテルに行って泊まろ」と言い、「それもそうだな」となぜかその提案について当たり前のように納得してホテルへ行ったら、ルームチャージが98,000円の部屋しかなくて(なぜかこの数字だけは起きても完全に覚えていた)、「高すぎだろ」と文句を言いながら、しかしどうしようもないのでそこに決め、部屋へ行くためにエレベーターに乗ったら、なぜかライフルを持った二人組の暗殺者みたいなものにいきなり襲われて「お前、何したんだよ」とか言いながら逃げまくり、途中ではぐれ、結局散々逃げ回った末にどうにか振り切って98,000円の部屋に辿り着いたらその女の子がいて「朝になっちゃったね、ごめん」みたいなことを言った瞬間に目が醒める……という、訳のわからん夢だった。

しかし、何回か続けて登場されると、何かのサインか? という気が少しだけするのは事実。もしかしたら向こうかこっちがもうすぐ死ぬのか、とか、変な想像をしてしまう。それでも、別に何もしない。たぶん、この先も会うことはない。そもそも友人関係とかで重なっている部分が皆無だし、お互いに住んでいる場所も知らないし(引っ越していないければ、その子の実家は知っているけれど)、機会やきっかけがない。

とか言いながら。

初恋の女の子については、ぶっちゃけ、ずいぶん前に軽い好奇心からググったことがある。ちなみに初恋は幼稚園で、可愛らしい相思相愛だったので、さすがに顔は完全に覚えていないけれど、フルネームだけは漢字で覚えていて、試しにググったら、年齢や住所的にほぼ当人だと思われる子のお利口さんモード全開の卒論がヒットして、(賢い女の子になったんだなー)と感慨深く思ったことを覚えている。