ふと気づけばもう十年以上（たぶん）トラベラーズノートのユーザーで、アホみたいな話だけれどうちには三冊のカバーがある。最初に買ったのがレギュラーサイズのブラウン、次が何年か後にパスポートサイズのブラウン、そして数年前に限定のオリーブのレギュラーサイズを買った。我ながら無駄に買っとるな、と思うけれど、その時は欲しくなったのだから仕方ない。でもまあ、今のところ使い分けはできている。最初に買ったレギュラーサイズのブラウンは、革カバーとしてエイジングがほぼ完成形なので、旅行の時に持っていくノートにしている（当分どこにも行けそうにはないけれど）。普段は、オリーブをスケジュール帳として月間ブロックとドット方眼の計二冊のノートを挟んで持ち歩いている。しかし、未だこのオリーブはどう贔屓目に見てもどうにも色目が茶色っぽくて緑っぽさがあまり感じられず、なんとなく「ハズレ」感が否めない。表面にゴワゴワとした皺も目立つし、何より揃いで買ったペンホルダーのオリーブと全然色合いが違う。ペンホルダーの革はちゃんと緑系で、できればカバーも同じ革で作って欲しかった。
それはともかく、問題はパスポートサイズ。こいつがもう何年も使わないまま放ってある。しかし最近、せっかく持っているのに使わないというのもなんか勿体無い気がして、使い道はなかろうか、と思い始めた。そこで、ふだん常にメモ帳として持ち歩いているロルバーンのミニの代わりに、単なる雑記用としてノート一冊だけを挟んでシンプルに使ったらどうだろう、と思った。そしてその際の筆記具は、とくに理由はなかったけれど、なんとなく鉛筆がいいような気がした。
しかしピンとくる鉛筆が手元にはなかった。ステッドラーの鉛筆とか青い芯ホルダーとかでもいい気はしたものの、どちらも試しにノートに挟んでみると、ちょっと長くてはみ出してしまい、見た目がイマイチで、しっくりこなかった。そこで食指が動いたのが、トラベーラーズノートの兄弟というか従兄弟というか、同じメーカーから出ているブラスプロダクトの鉛筆だった。正直（またメーカーの策略にまんまと嵌められとるやんけ）とは思ったものの、他に良さそうなものが思いつかなかった。
そこで、スタンダードモデルというか、無垢の真鍮のシンブルなブラスペンシルを買いに行くことにした。とはいえ、世間はまだ自粛要請期間中で、悉く店がやっていなかった。ハンズもロフトも休みで、困ったな、と思いながら検索してみると、丸善は営業していることがわかった。丸善は本屋なので、土日は休んでいたりしたけれど、基本的にはずっと営業しているようだった。
そして、時間のある時（まあ最近はたいていいつでもあるが）に買いに行った。そうしたら文房具売り場は広かったけれど、トラベラーズノートのコーナーはこじんまりとしていて、ブラスプロダクトはそれ自体の扱いが少なく、目当ての鉛筆も無垢の真鍮のモノはなくて少しお高いファクトリーグリーンしかなかった。
そこで、どうしようかな、と迷った。ロフトやハンズがやっていれば他で探すことは可能だったけれど、やってないし、現物を見て買いたかったからネットは対象外で、おそらく自分の生活圏内でTN関係が買える店はこの丸善しかなさそうだった。なので結局、そのファクトリーグリーンのブラスペンシルを買った。
無垢のモノの実物は見ていないのでなんともいえないけれど、手にしてみると、このファクトリーグリーンも全然悪くはなかった。ボディが真鍮剥き出しではないのでわかりやすい経年変化は感じられなさそうだけれど（もしかしたら緑の塗装が剥げたり傷がついたりすると真鍮が露出してきて味が出てくるのかもしれないけれど）、これはこれでいい感じに思えた。
というわけで、今、ノート一冊だけのシンプルな薄いトラベラーズノートのパスポートサイズにこのファクトリーグリーンのブラスペンシルを適当に挟んで持ち歩いている。ちなみに、ペンホルダーは最初からつける気がなかった。なぜかわからないけれど、なんとなく付けない方がいいと思ったから。表面にくっきりと跡がつくし。
それにしても、鉛筆の書き心地ってあんがい悪くない。というか、けっこう良い。 芯がHBなので使う前は（硬いかな？）と思ったのだけれど、実際に書いてみると感覚的にはBくらいの感じで、意外に気にならなかった。鉛筆は柔らかいモノが好みなので、場合によっては換えなければならないか、と思っていたのだけれど、それは杞憂に終わった。付属の鉛筆で充分満足。
余談だけれど、手持ちの三冊のカバーの中でパスポートサイズの革だけが何故か分厚い。他の二冊と比べて見ると「なんとなく」ではなく「明らかに」厚い。そのぶん硬めだし、色目も、茶色と言いながら妙に赤っぽく、レギュラーのブラウンと並べると、同じカラーとは思えない。尤もトラベラーズノートの場合は個体差も傷も全て「味」という魔法の一語で解決してしまうので、問題にはならない。
